現場感覚が実効性を生む、事業部とコーポレートをつなぐ「6割・4割」の二本足打法
池側:組織変革の象徴である「FNBP」制度ですが、「所属部門長に6割、本社の財務経理部長に4割」というダブル・レポーティング体制をとられています。この比率の意図と具体的な機能について教えてください。
板倉:FNBPを経験して痛切に感じるのは、現場と財務の意思疎通の難しさです。研究や開発のメンバーは「減価償却費」という言葉を知っていても、それが日々の投資判断にどう直結するかの感覚が疎いのです。たとえば「1億円の設備投資」の案件があったとき、財務なら「10年償却だから今年のP/Lへの影響は1,000万円、上期が終わるから今年分は500万円だな」と瞬時に考えます。しかし現場では、総額のキャッシュの多寡だけで議論してしまいがちです。
FNBPが現場の隣に座っていれば、「今年のP/Lへの影響は500万円だから枠内に収まる」と伝えられます。同時に、「これは今後10年間にわたり毎年1,000万円の固定費が乗り続ける重い判断だけど、本当に投資する価値があるのか」という規律の議論をその場で起こせます。現場感覚を持った「翻訳者」の存在が、コミュニケーションを劇的に円滑にしています。
谷口:実効性の高い経営管理には日常業務を理解する現場感覚が欠かせません。だからこそ「事業部門長の右腕」として6割のウエイトを置きつつ、全社視点の規律を守るために4割を財務経理部にレポートしてもらっています。評価や賞与も両方の上司が決定に関与する仕組みです。
さらに2026年1月からは体制を一部改定し、それまで本部・ユニット単位で配置していた14人のFNBPのうち、「R&D」「Value Delivery(営業・メディカル・医薬安全性)」についてはバリューチェーンごとの大きなくくりで統括する体制に再編しました。R&Dは板倉が統括FNBP職として配置されるなど、統括機能を設けています。これにより、A本部の予算を足りないB本部に融通するといった「資源の再配分」や、人員最適化、共同購買がスピーディーに行えるようになり、全社戦略とのアラインメントがさらに強化されました。
期間損益の成長と長期戦略の二律相反を両立する資源配分
池側:中期経営計画を廃止し、長期成長戦略「TOP I 2030」を軸に据えられている点も先進的です。資本コストを意識した財務資源配分の方針を教えてください。
谷口:当社のビジネスは足が長く、一般的な3年中計では、その真価を測りきれません。そのため10年の長期スパンで戦略を策定し、舵取りを行っています。
戦略の柱の一つは「自社グローバル品を毎年上市すること」です。世界中のメガファーマを含めても新薬が世に出るのは年間30〜40品程度。その中で「毎年1品」を出し続けるのは極めてチャレンジングであり、莫大なR&D投資が必要です。一方で、資本市場からは毎年着実な利益成長や1株当たり利益(Core EPS)の拡大を求められます。バランスシートに約1兆円のキャッシュがありますが、自社の資本コスト(WACC)7%台を上回るリターン(ROICやROE)を生み出せるかを厳格に検証する必要があります。
「期間損益の着実な成長」という市場の要求を満たしつつ、「年1品の上市」という超長期のイノベーションへ投資を続けること。この二律相反するゴールをコントロールし、最適な資源配分をナビゲートすることこそが、CFO組織の最大のミッションです。
