R&Dの現場感のある財務人財の育成、戦略的投融資の高度化
池側:組織変革を担うFNBPを育てるために、どのような人事・育成戦略をとられていますか。
谷口:当社はジョブ型雇用を導入していますが、FNBPに求める絶対条件は「事業現場での深い実務経験」です。板倉のように元研究者であるとか、営業や製造の現場で高い視座を持ってマネジメントをしてきた人財でなければ、どれだけ財務の知識があっても現場の本部長に対して十分な説得力を発揮することは難しいです。
現場のDNAを持った人間が、共通言語としてのファイナンスリテラシーを身につけ、全社視点と現場視点の両方を持って語る。この育成がこれからの人事戦略の中核です。将来的には、このFNBPというポジションを「次世代の経営幹部の登竜門」にしていきたいと考えています。
池側:CFOとして、次に超えるべき財務戦略上の課題はどこにありますか。
谷口:P/Lの管理会計に関しては非常に高いレベルに達したと自負しています。しかし、中外製薬は自社創薬を中心に歩んできたため、無形資産の獲得を伴う「M&Aや戦略的投資」の経験が他社に比べて不足しています。現在、経営企画部と並んで「戦略投資部」や「ASPIREトランスフォーメーション部」を設置していますが、今後はこうした部門と連携し、戦略的出資や買収をリードするケイパビリティが必要です。P/Lの単年度の視点から脱却し、B/Sやキャッシュ・フローの視点でM&A後のインテグレーション(PMI)までを切り盛りできる高度な財務人財を現場レベルで厚くしていくことが、次の大きな挑戦です。

ERP刷新とデータ民主化で加速するイノベーション、人間にしかできない提言への集中
池側:最後に、これからの戦略遂行を支えるIT基盤やデジタル(DX)、AIの活用についての展望をお聞かせください。
滑川:当社ではこれまで、EPM(企業業績管理)基盤としてオラクルの「Hyperion」を10年以上運用し、P/LやB/Sを一元的に管理する「シングル・ソース・オブ・トゥルース(信頼できる唯一の情報源)」を確立してきました。
板倉:PLUではデータを集約し、「ポートフォリオダッシュボード」を内製化しています。各プロジェクトの状況を一覧できるため、「あと数ヵ月で検証データが出るなら、今の段階での投資判断は待とう」といった意思決定を、各本部でもできるようになっています。
谷口:そして直近の大きなマイルストーンとして、ERPの「SAP S/4HANA」への移行を控えています。この業務基盤の全面刷新を起点として、FP&Aの解像度、スピード、正確性をさらに高度化していきます。デジタルトランスフォーメーションユニットをはじめとする全社バリューチェーンでリアルタイムに情報が同期されるダッシュボードを構築し、すべての部門で「データに基づいた経営」を当たり前にしていきます。
生成AIの活用については、「定常業務を圧倒的に効率化し、社員がより付加価値の高い業務に集中できる環境を整える」ために積極投入していきます。システムやAIにできる作業は任せ、人間はより高度な「未来の予測」や「経営への戦略的提言」という付加価値の高い仕事に時間を使う。DXを核としたモデル再構築を通じて、世界中の患者さんのために新しい価値を創造し続ける組織へと、中外製薬のファイナンスはこれからも進化を続けていきます。
池側:本日は貴重なお話をありがとうございました。
