アステラス製薬のFP&A組織の4つの活動領域と組織構造
池側:アステラス製薬のFP&A組織は、「Enterprise」「VALUE Delivery」「R&D」「PDM」という4つの領域に分かれているとお聞きしました。それぞれの役割分担と全体像について教えてください。
ジャック:当社のFP&A組織は、ビジネスのバリューチェーン全体をカバーする形で明確に役割が定義されています。
1つ目の「Enterprise Finance(全社統合)」とは、全社計画の統合、財務指標の管理、キャピタルアロケーション、経営陣(CEO/CFO)の意思決定支援を担う役割で、私が責任者を務めています。2つ目の「VALUE Delivery Finance(コマーシャル)」とは、コマーシャル・メディカルアフェアーズ領域における計画・予測・収益性分析・販売投資の判断を支援する役割です。3つ目の「R&D Finance(研究開発)」とは、研究開発投資、パイプラインの価値評価、治験プログラム推進の財務支援を行う役割です。4つ目が「PDM Finance(製薬技術・製造)」とは、製造・開発活動、製造原価(CoG)の最適化、資本投資や新製品導入を支援する役割です。
これらに加え、CoE(Center of Excellence)が、Planning&ForecastingやStandardized Reporting(Qlikを活用したレポート標準化)などのデータ基盤・定型分析を担っています。定型業務をCoEが集約・効率化することで、各領域のビジネスパートナー(BP)は「事業部長の横に座り、意思決定を支援する定性・定量インサイトの提供」に集中できる構造を作っています。

製薬特有の「Pipeline Value(パイプライン価値)」を見据えた財務支援
池側:一般的な製造業や消費財メーカーと異なり、製薬業界のFP&Aにおける最大の特徴は「R&Dやパイプライン(新薬候補)の価値評価」にあると思います。成功確率が極めて低い中で、FP&Aはどのように投資判断に関わっているのでしょうか。
北村:製薬ビジネスのR&Dは売上の15〜20%を投資しますが、成功確率は1万分の1以下という世界です。だからこそ、プロジェクトごとのタイムリーで適切な予算トラッキングと支出の透明性が命になります。どこかのプロジェクトで予算の未消化が発生した際、それをリアルタイムに把握できなければ、別の有望な新規プロジェクトへ追加予算を回すことができず、巨大な機会損失を生んでしまいます。
また、現在は治験(臨床試験)機能のインハウス化(内製化)を進めており、外部CRO(開発受託機関)への依存を減らして自社でスピード管理とROI向上を図っています。

ジャック:パイプライン価値(Pipeline Value)の最大化に向けては、研究開発段階からコマーシャル(営業マーケティング、販売促進など)、製造に至るまで、アセットのライフサイクル全体を一気通貫で見ることが求められます。
当社は2025年4月から「患者軸」を中心に据えた組織体制(VALUE Creation=イノベーション創出、VALUE Delivery=顧客エンゲージメント、VALUE Enablement=基盤機能)へ再構築しました。FP&Aも経営戦略部門(CStO)やR&D部門とリアルタイムで連携し、「臨床PoC(Proof of Concept)達成後にどのPrimary Focusへ優先的にリソースを集中させるか」というシナリオ分析やトレードオフの検証を行っています。



