「ダイキン情報技術大学(DICT)」というデジタル人財育成機関の存在
これほど高度なAI活用を内製化し、スピーディーに実務へ適用できている背景には、同社が2018年から取り組んでいる独自の社内人財育成プログラム「ダイキン情報技術大学(DICT:Daikin Information Innovation Center Technology)」の存在がある。
製造業において、外部から情報系の新卒や高度なITキャリア人材を急激に獲得することは極めて困難である。そこで同社は、新卒採用者を「1年目は、通常業務に一切就かせず、給与を支払いながらAI・IoTの専門教育に専念させ、2年目は現場に仮配属され、現場課題の解決に取り組む」という大胆な投資に踏み切った。
この2年間の育成プロセスを経ることで、単にコードが書けるIT技術者ではなく、ダイキンの製品・事業・組織文化を深く理解した上でデジタル技術を実務に適用できる。すでに数百名以上の卒業生が各事業部のDX推進の中心として活躍しており、知的財産部にもこのDICTを修了した高度なAI人財が配属され、数々の知財ツールの内製開発をリードしているのである。
知財インテリジェンスの民主化──AI時代に人間が磨くべき3つの能力
安部氏は、「知財インテリジェンスは今後、一部の専門家だけのものではなく、組織全員の武器となる『民主化』の時代を迎えます」と予言する。
これまでは、高度な検索式を組み立てるスキルや、膨大な文献を読み解くスピードといった「属人的な能力差」が知財分析の質を大きく左右していた。しかし、生成AIの進化は、それらのスキルの大半を強力に吸収・平準化していく。このような時代において、人間が真に磨き、発揮すべき能力は以下の5つのステージにおける「人間の領域」に集約されるという。
「どの事案にどの程度の精度(クオリティ)を要求するかを判断するのは、最終的に人間の役割です。80点のアウトプットで十分な定型業務であれば、AIに任せた方が効率的なことは明らかです」(安部氏)
知財人材がリードする「事業価値の最大化」
AIによって情報の壁が低くなるからこそ、知財の専門人材は自らの強みである「多様な技術・市場情報を広く深く俯瞰できる情報接触量」や「特許や契約を見極める法的バックグラウンド(法務理解)」、そして「技術の本質を捉えて確固たる参入障壁を築く権利化力」の掛け算により、組織の意思決定を力強くリードしていくべきであると安部氏は結論づけた。
「知財インテリジェンスの目的は、綺麗に分析されたレポートを作ることで終わってはなりません。知財という無形資産を徹底的に使い倒し、事業の競争優位に変え、社会へ新たな価値を提供しながら『事業で勝ち続けること』こそが、我々の果たすべき真の目的である」(安部氏)
データ、対話、そしてAIを高度に融合させ、知財の価値を最大化し続けるダイキン工業の挑戦は、すべての企業のコーポレート部門が「コストセンター」から「価値創造の牽引役」へと変革するための、極めて実践的なバイブルとなるはずだ。

