サイロ型から「伴走型」へ──知財組織の変革の実践
知財活動におけるデータ分析の信頼性が担保されたことと並行して、知財部門の役割そのものにも変化が求められるようになっている。安部氏は、従来の知財業務の構造的課題として「特定の業務への依存と分断」を挙げる。
従来の一般的な知財部門は、1. 創造・発掘、2. 調査・分析、3. 保護(出願・権利化)、4. 活用・ライセンス、5. 権利行使・紛争対応、6. 管理・維持、7. リスク・コンプライアンス対応といった各領域が縦割り(サイロ型)の組織構造になっていることが多かった。その結果、出願や審査対応といった「3. 保護(プロセキューション業務)」の実務に組織の比重が偏ってしまい、技術開発の上流や、ライセンス・権利行使といった下流の視点が十分に出願実務に活かしきれないという個別最適の限界を迎えていたのである。
ダイキン工業はこのサイロ型の知財組織を脱却し、各チームが全方位的につながる「コミュニケーション型(全体最適)」への移行を進めている。各領域が有機的に連携し、技術・事業の川上(上流)から、権利行使やリスク管理を行う川下(下流)までを一気通貫で見通す体制を構築することで、それぞれの実務の質を互いに向上させる狙いがある。
組織の壁を壊す「クロスアサイン」と「伴走型知財」の実践
このコミュニケーション型組織を実体化させるための具体的な仕掛けが、本社知的財産部と、研究開発拠点であるTIC(テクノロジー・イノベーションセンター)の知財チーム間で行われている「人材のクロスアサイン(相互兼務・相互配属)」である。
これまで専門職として独立しがちだった知財アナリストや特許担当者を、研究開発や事業の「現場」へ直接送り込み、技術開発の初期段階から同じ目線で伴走させる体制を整えた。
知財人材が自ら技術の現場に入り込み、技術者や事業担当者と密な対話を重ねることで、彼らが抱える本質的な課題や目的を正確に把握することができる。これにより、単なるデータの可視化に留まらない、現場の意思決定に直結する「実効性のあるインサイト(洞察)」の抽出が可能となった。
「知財インテリジェンスを単なるレポートで終わらせず、実際の事業成果へつなげるためには、分析担当者が主役になるのではなく、問いを持つ現場が主役となり、アクションを起こさなければ意味がありません。対話を通じて現場の納得感を高め、彼らの『本気度』を引き出すことこそが、最も経営や事業にインパクトを与えるのです」(安部氏)
組織の壁を取り払い、徹底して現場に寄り添う「伴走型知財」へのシフトが、ダイキンの知財戦略を劇的に進化させるエンジンとなっている。
