花王の経理パーソンの「事業に先回りする専門性」の定義
池側千絵氏(以下、池側):花王は古くから経理の専門職採用を一貫して30年以上継続され、一般的な日本企業にある「経営企画」に依存しない独自の組織形態を維持されています。経理組織がこれほど強力な主導権を持つ企業はあまり見られませんが、花王の経理パーソンにとっての「専門性」とはどう定義されているのか、お聞かせください。
峯岸佳雅氏(以下、峯岸):経理の中には制度会計、連結、税務など様々な職能グループがありますが、ことFP&A(管理部FP&Aグループ)に特化して申し上げれば、会計知識は単なる「前提条件」に過ぎません。それ以上に求められるのは、「ビジネス(事業内容)への圧倒的に深い理解」です。
ビジネスの現場を解像度高く理解しているからこそ、意思決定の局面に遭遇した際、我々の側から先回りして戦略提案やリカバリー策(TCR活動など)を能動的に提示できます。また、現代の業績シミュレーションには膨大なトレンドデータが不可欠ですから、高度なIT・デジタルを使いこなして分析精度を向上させる能力も外せません。数字を通じて経営トップと現場をつなぎ、最終的な企業価値向上(EVAおよびROICの最大化)に直接貢献できる実行力、それが花王の定義する専門性です。
入社後、工場経理を経験したのち、本社の管理会計部門、海外子会社のコントローラー(経理統括)、事業部門付きのコントローラーなどを歴任。30年以上にわたり管理会計・原価計算の一線に身を置き、現職。グローバルでのFP&A体制の構築と、CFO配下の「経営財務ユニット」の新設・運用も主導している。
池側:経営企画部門が数字のとりまとめを主導しないとなると、社内の役割分担はどうなっているのでしょうか。
峯岸:経営企画部門はありますが、そこでは主に統合レポートの作成や非財務情報の提供といったコーポレートブランディングに軸足を置いており、経営企画と会計財務の役割分担は独特かもしれません。一方で、中期経営計画「K27」の策定、予算(年度計画)の編成、月次の見込管理、実績フォローといったPDCAサイクル、および重要会議体の運営は、我々会計財務部門が責任を持って主導しています。IR(投資家向け広報)やSR(株主対話)についても会計財務部門が深く関与しており、人材ローテーションとも密接に連動しています。
独自の管理会計手法から「事業別ROIC」への進化
池側:独自の管理会計手法の確立という点において、花王は1980年代の事業部制導入と同時にブランド別損益での事業管理を開始されていますね。当時の思想と、現代における経営指標の進化について教えてください。
峯岸:1980年代初頭から、ブランド別の損益管理などに取り組んでいました。その後、1999年には連結重視の経営へと舵を切り、EVA(経済的付加価値)を主要経営指標として導入しました。そして現在は、不確実性の高いマクロ環境に対応するため、限界利益率や売上総利益率といった「稼ぐ力」の改革に主軸が置かれています。
高付加価値化や原価低減活動(TCR)を徹底するため、2023年からは新たに「事業別ROIC」を導入しました。これにより、棚卸資産(在庫)や固定資産などの事業用資産の回転率という「資本効率」の視点を現場との対話に組み込み、全社ROICの向上を図っています。
