全社最適を保つ絶妙な「レポートライン」や「兼務」の秘訣
池側:2025年からはさらに一歩踏み込み、FP&Aリーダーは事業部門を兼務し、CFOと事業責任者の双方にレポートラインを持つ「デュアルレポート体制」へと移行されました。事業部門に入り込めるのはいいことですが、板挟みにもなりやすい難しい立ち位置です。どのように仕事をされていますか。
瀬戸口:事業責任者と日次・月次で膝を突き合わせて直接対話する環境ができたことで、経営層が求める高い目標と、現場が積み上げるボトムアップの予測とのギャップをその場で即座に検知し、埋められるようになりました。経営トップから特定の数字や在庫の滞留について懸念が示された際にも、事業部が経営会議で報告する前に、我々FP&Aが先回りして軌道修正のシナリオを事業責任者と共に組み立てられます。
峯岸:当然、事業部側に深くコミットするほど「自分の担当事業をよく見せたい」という個別最適や、開示利益(セグメント利益)と事業管理利益を都合よく使い分ける歪みが生じるリスクは高まります。
だからこそ、花王ではFP&Aメンバーの主軸(籍と人事権)を100%会計財務部門に残し、CFOへの強固なソリッドライン(単線レポートライン)を維持させています。事業責任者に対してはドットライン(点線)で仕えることで、「会社全体の利益・資本効率から見て、その投資や在庫水準は正しいか」という厳しい全体最適の物差しを維持できるのです。この絶妙なバランスの規律こそが、花王版FP&Aの真骨頂であり、常にそうありたいと活動しています。
デジタル基盤による可視化はFP&Aの必須条件
池側:花王が推進する新たなデータ基盤「Kao i-Lake」やSAP社の「Central Finance」を活用して構築されたグローバル統合経営情報基盤「GMAP」の導入、あるいはAIを活用した仕組みは、FP&Aの「稼ぐ力の改革」にどう貢献していますか。
峯岸:当社の連結対象会社は118社に及び、グローバルで複数の異なるSAP環境(R/3の4つのインスタンスなど)が存在し、システムが集約しきれていないという長年の課題がありました。そこで2018年に一元管理のハブとなる「GMAP」を導入したことで、グローバル経営情報の一元管理体制が整いました。
これにより、月次での連結損益報告のスピードアップと精度向上が実現し、グローバル規模での状況把握と迅速な意思決定に大きく貢献しています。現在推進している「SAP S/4HANA」へのグローバル共通テンプレートの展開(2028年完了予定)が完了すれば、この基盤はさらに強固になります。
瀬戸口:現場の対話においては、定型的な実績データやシミュレーション結果を、Power BIやSAPのクラウド型データ分析・計画ソリューションである「SAP Analytics Cloud(SAC)」を用いて完全にシステム側でダッシュボード化しています。さらに、AIを駆使して工場の標準原価登録のプロセスを劇的に簡素化する取り組みも各工場へ展開済みです。
このデジタル基盤の整備によって、関係者がいつどこで働いていても数字情報は迅速に共有が可能になりました。以前まで会議の場では「過去の数字がどうだったか」の確認に費やしていましたが、そのような時間はなくなり、「これから原材料の高騰を吸収し、ROICを上げるために、顧客別・商品別の販売価格反映や在庫コントロールをどう行うか」という未来の戦略的対話にリソースを集中できるようになっています。
